ちょっと、想像してみてください。完全に視覚を奪われた状態で食事をすると、どうなるでしょう? 何を食べているのか? 完食できているのか? 隣や向かいに誰がいるのか……? 普段、いかに「目で食べているか」を実感します。これは欧米発の「ブラインドレストラン」に、日本文化と仏教観を融合させた「暗闇ごはん」というプログラム。発案者は浅草・緑泉寺14代目のご住職で、 料理と食育に取り組んできた“料理僧”としても知られており、数多くの著書があります。「暗闇ごはん」は、心づくしの精進料理を見えない状態でいただきながら、僧侶からの問いに自分だけで、または向かいの人と、またはグループで答えます。その過程で自分自身の知らなかった一面や人との関わり方の得意不得意部分を発見することができるんです。いわば、食を通じて、固定観念を打ち破り、コミュニケーションの原点へと立ち返る体験なんです。
米国MBAホルダーでもあるご住職の青江覚峰さん。「暗闇ごはん」発案のきっかけは、アメリカでの体験でした。働きながら大学院に通う多忙さで、毎日の食事は3食ともシリアルだけ。「心を置き去りにする生活だった」と振り返ります。「帰国して実感したのは、食物こそ自分の糧に他ならないということ。目の前の食べ物は、明日の自分。食事を大切にすることは、自分を大切にすることなのだと気づきました」。「暗闇ごはん」は、食べることに意識を向け、自分自身を見つめ直すためのプログラムとして考案されたのです。その概念には、日常生活におけるストレスの軽減やビジネスパフォーマンスの向上に役立つ「マインドフルネス」の思考も反映されています。その「マインドフルネス」の提唱者であり医師でもあるジョン・カバット・ジン氏は、日本で「暗闇ごはん」を体験し、「これは食べるマインドフルネスだ!」と絶賛したそうです。
暗闇の中で供される精進料理のコースと、一皿ごとに出される青江さんからの問いには、発見を促すアイデアが込められています。問いの答えを探る時間は、謎解きのようにエキサイティング。旬の素材や出汁の滋味など、感覚を研ぎ澄ますことで、普段より深く感じる味わいも。また、周囲のつぶやきが聞こえてくると、それに惑わされたり、自分の感覚に自信が持てなくなったり。コースを終えると、目隠しを外して種明かしが行われるのですが、これがもう、びっくりすることばかり。いかに自分が先入観や固定観念にとらわれていたかを知ることにも。濃密な時間を共有したメンバーの顔も、ここで初めてわかります。感想を語りあい、人の意見を聞くことで新たな気づきに出会うのも、楽しみのひとつ。「暗闇ごはん」は、目隠しして食事をするという、とてもシンプルな体験。それなのに、日常では忘れかけていた感覚や、他者との関わり方を改めて考え直す、深く得難い経験なのです。
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